natural-ring コイデなきもち。。。

自然とのつながりを感じていたい。日常で出会った環な気持ちを綴ります。

消えゆく近代建築

いつもの通り道をちょっと変えたら、とても素敵な風景と出会うことがあります。

先日、気分を変えて違う道を曲がった先に、美しい洋館が目の前に現れまました。

空色の南京下見板張り、白い窓枠、屋敷周りの木々の緑、そして秋空。とても奇麗なコントラストで、慌ただしく歩いていた足を止め、しばし見入ってしまいました。

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この洋館、元々は明治から戦後にかけて衆議院議員を務めた「憲政の神様」と称された尾崎行雄(雅号は尾崎咢堂)が、外国人のお客用に建てたもので、後に現当主の先代の方が、その美しさにほれ込んで購入し、今の場所に移築したものだそうです。

 

明治から昭和20年までに建てられた建物を近代建築と呼びます。純和風の家から、和風の玄関横に様式の応接間を設けた和洋折衷型、壁をタイルやモルタルで塗り、屋根をスペイン瓦やフランス瓦で葺いた洋館など、色々なスタイルの建物があります。また、当時の建物は内装も大変手の込んだつくりが見られ、板を1枚1枚寄木したフローリングや階段手すりの装飾、照明器具などの調度品の随所に職人の技が光ります。

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しかし、生活様式の変化により現代の暮らしに不向きになったことや、老朽化などにより次々と消失しています。世田谷区内では、1983年度から1985年度に教育委員会が行った調査によると、1745棟が確認され、2001年度から2009年度にかけて財団法人世田谷トラストまちづくりが行った調査では、1463棟が新たに発見され、合わせて3208棟の近代建築が確認されましたが、その後の追跡調査により、2011年に現存していたのは1223棟だったそうです。今後も減少の一途をたどるのでしょう。

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近代建築の保存については、国の登録文化財地方自治体の文化財指定などの制度があり、保存修理への補助や税の減免などを受けられますが、指定されるには、それなりの理由が必要なのと、指定されると制約も生じるため、登録に応じる所有者が少ないという話を聞きます。建物はよほど所有者が愛着や思い入れがないと残していくことは難しく、ある日、見慣れた建物が忽然と消えて更地となっていることがしばしば起こります。

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先日、東京駅が建築当初の姿に蘇ったことが話題になりました。再建までの道のりはテレビなどで紹介されていましたが、そこに至る苦労は並大抵のことではなかったことと推察されます。空襲で焼失した3階部分も復元され、2階のレンガと3階の真新しいレンガがくっきりと浮かんでいました。数十年後、もしかしたら100年後には、同じ色合いとなるのでしょう。100年後にも、今の姿が残されていることに、ロマンを覚えます。

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東京都の小金井公園では、近代建築を移築復元して公開していますが、そこには人の匂いが感じられず、訪れても何か物足りなさを感じます。家族の歴史や街の移り変わりなどを静かに見守り、地域の物語を今に伝える近代建築は、そこに現存しているからこそ、その価値を高めるのではないかと自分は思っています。

 

それでも、残念ならが解体される建物については、教育委員会の方たちが記録調査を行っているそうです。場合によっては、調度品を譲り受け、保存しています。成城4丁目の野川に沿って桜並木が続く所にある、世田谷トラストまちづくりのビジターセンターでは、12月28日まで「世田谷のまちの成り立ちと近代建築展」が開催されています。近代建築と街の移り変わりや建物写真をパネル展示するほか、当時の照明器具とガスストーブなどが展示されています。

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深まりゆく晩秋の休日、桜の紅葉を見がてら、訪れてみてはいかがでしょうか。

http://www.setagayatm.or.jp/trust/map/vc/index.html