成城散策(猪股庭園)
気付けば、1月も下旬にさしかかろうとしていました。毎日、バタバタ続くのは、今年も変わらないのでしょうか。。。
今日は、東京農業大学グリーンアカデミーという、成人対象の生涯学習の授業で緑が多く残る成城界隈の自然や歴史的文化財を案内。残雪の町歩きを楽しみました。
緑の多い閑静な住宅街を5分ほど歩くと、ウバメガシの生け垣に囲われた成城五丁目猪股庭園という世田谷区の公園があります。
ここは、テレビのニュースなどで、今年の新入社員の平均初任給は、○○円ですというデータを出している、(財)労務行政研究所の理事長を務めた猪股猛氏が昭和42年に建てた邸宅で、平成9年、世田谷区に寄贈されました。寄贈までの経緯に自分も関わったため、この建物には思い入れがあります。
設計は、歌舞伎座や成田山新勝寺、吉兆などを設計した、近代数寄屋造りの第一人者と言われる文化勲章者の吉田五十八氏の晩年の作品。
武家屋敷風数寄屋造りと呼ばれています。なんと、設計後にモデルハウスを作ってから、この家を建てたそうで、完成まで2年かかったこだわりの建物です。
硯に使われる玄昌石の玄関から中に入ると、能舞台をイメージして造られた踊り場があり、茶室へと続きます。鉄分の多い壁材で染みを出すことにより、詫びさびを表しているとか。
当主の猪股氏は、鎮信流という武家茶を嗜まれていたそうで、そのためか、にじり口は大きい作りとなっています。
玄関の右手はこの建物のメインでもある居間。吉田五十八氏は、居間からの庭のながめを考慮し、窓ガラスなどは全て戸袋に収納することで、まるで額に入った絵画のように、京都をイメージした日本庭園を堪能できる設計を施しています。
戸袋には、雨戸、網戸、ガラス窓、障子が1か所にすべて収まるようになっていて、戸の曳き手も、普段はフラットになります。
京都をイメージした庭は、光悦寺垣があり、杉苔が敷きつめられていますが、今日は雪に覆われ、それはそれで風情のある景色でした。毎年、雪も降らないのに、庭園の景観を良くすることと、業者の雪つり技術の維持を図る理由から、雪つりをする世田谷区に対し、税金の無駄遣いという声もあるのですが、今年は雪つりが似合います。
婦人室に続く床の間の間には、ウォークインクローゼット。昭和42年にウォークインクローゼットとは驚きです。しかも、すべての部屋は段差のないバリヤフリー。
この床の間の下側は、なんとエアコンの送風口となっています。
床の間に続く部屋は、その後増築されたもので、書斎と夫婦二人で楽しむ、二畳台目の茶室があります。
随所に色々な工夫が施され、また柱などの部材もスギやヒノキではなく、木目が緻密で美しい外材のマツを使うなど、見どころ満載です。寄贈当時は、文化財基準の50年になっていなかったのですが、いずれは文化財として指定されることは間違いない建物で、寄贈という道を選んだ、ご子息の先見性に敬服します。
ここでは、(財)世田谷トラストまちづくりの建物解説ボランティアさんが熱心に活動を行っていて、熱のこもった解説は本当にこの建物が大好きなんだなという思いが伝わってきてます。春と秋にはボランティアさんたちによるお茶席も催され、多くの人が訪れます。
春のお茶席も良いですが、この週末、残雪と雪つりの景色を見にいってみてはいかがでしょうか。