森林ボランティアの安全技術と技能
8月3日(土)、イトーキ東京イノベーションセンターSYNQAで開催された公開シンポ「森の技術と安全ー森林ボランティア新時代の安全を考える」に参加しました。
森林ボランティアの増加にあいまって、間伐されずに放置された樹木も大径化したため、チェーンソーや刈払い機の使用も増え、それに伴い重大事故が増えています。
自分たちの活動では、原則、ノコやカマ、ナタなどの手道具を使用していますが、どうしても作業量が多い時に限り、講習を受けた者が動力を使って処理することがあります。どうも男性は機械好きが多く、チェーンソーを使いたがるところがありますが、正しい使い方を知らないと、思いもよらない事故が起こり、それが原因で活動が休止に追いやられることさえ生じてきます。林業はキツイ、キケン、キタナイ3K職場と言われ、産業別死傷事故率は最上位となっています。でも、正しい知識と技術・技能を備えていれば防げることが多いものばかり。安全技術と技能の習得は、プロもボランティアであるアマもありません。
8年前、学識経験者や林業家、森林ボランティア団体のリーダーなどが集い、ボランティア活動に参加する者に、森づくりの安全技術や技能を正しく身につけ、事故なく楽しく作業してもらいたいと、「森づくり安全技術・技能全国推進協議会」を立ち上げ、自分も末席ながら関わらせて頂いております。協議会では、技術・技能の習得を目指してもらうため、ランク1~5を設定し、審査して認定する制度を作りました。ランク1は、制度の感心を高めてもらうため、はじめて森づくり活動に参加した者に与えます。ランク2はノコやナタなど手道具における安全技術・技能、ランク3はチェーンソーなど動力作業における技術・技能を備えた人に与えます。ランク4以上は指導者の審査となっています。紆余曲折がありましたが、やっと体制も整い始め、まずは多くの森林ボランティア団体にこの制度の趣旨を理解いただき、参加してもらうために、ランク1の層を広げることが急務となっています。
この日の午前中は、協議会の年次総会が同じ場所で開催され、その続きで公開シンポを開催しました。全国各地から森づくり活動を実践している方々などが150名以上集い、感心の高さがうかがえました。パネルディスカッションでは、森づくり活動を活発に実践しているNPO団体の代表がパネラーとなり、どのような安全対策をしているかなどの事例紹介をしました。
また、パネルディスカッションに先立ち、元信州大学演習林の教授で、退官後は信州伊奈で林業塾を開講し、多くの森林ボランティアを育てている島崎洋路氏を招き、林業エッセイストの浜田久美子氏を聞き手に基調対談が行われました。昭和3年生まれの島崎氏は日本の林学会の草分けであり、その温和な人柄は多くの門下生を育て、今も元気に日本の林業の発展に尽力されています。
現在、日本の林業従事者は5万500人(平成22年度林業白書)で、平均年齢が60歳以上という高齢化となっています。また、木材価格の下落により採算がとれず、間伐が放棄されています。先日公表された平成24年度の林業白書では、昭和56年に立木1㎥あたり、スギは22,707円、ヒノキは42,947円もしていたのですが、現在はスギ2,600円、ヒノキ6,856円となっていて、到底伐採して山から運び出す費用が賄えません。しかし、木は生きているため、年々成長して太っていきますから放置し続けると、いざ間伐をしようといっても容易ではないことが想像されます。島崎洋路氏によれば、日本の人工林を整備していくには、木を育てる数は15万人、伐採作業などには10万人、少なくとも20万人は必要ととのこと。現在、林業に従事している者は5万500人。まったくの人材不足と嘆きます。国は日本の国土の将来を真剣に考え、林業従事者を育てる取り組みをもっと充実させる必要があります。
森林ボランティアで日本の森を救えるか?と問われると、月に1~2回の週末程度の活動では焼け石に水で到底無理と答える方も多くいます。確かにそうだと思います。
農業や漁業は食に関わるものだけに、誰もが関心を示しますが、林業は暮らしに直結していないため、関心が低いことも林業問題を解決できない要因の一つです。
しかし、このまま問題を先送りしていると、近い将来、国土保全面など様々な危機が訪れるでしょう。島崎氏いわく、問題は山積み。問題を話していても始まらない。後はやるかやらないか。どれをどうやるかだ。やるべきことは見えている!と訴えます。全くの同感。何もやらないより、やったほうが確実に前進するわけですから、一人でも多くの者が森に入り、森の現状を知り、林業問題を自分のこととして感じ、将来を憂う人を増やし、世論を高め、国を動かしていくことが必要と考えます。そしてその中から一人でも林業に携わる者が現れてくれる可能性もあると考えると、森林ボランティア活動のもつ意義も大きいのではないでしょうか。
安全な技術・技能を身につけたボランティア活動の充実化を図ってまいります。