ツバメが飛ぶ人情味のある街をいつまでも
春になると、フィリピンやタイ、インドネシアなど南の国からはるばる渡ってくるツバメ。春から夏に1~2回、夫婦仲睦まじく雛を育て、秋に帰っていきます。
ツバメが巣づくりする場所は、巣材となる泥や草と、1日13時間のうち、700匹は必要と言われるユスリカやカ、ハエなどだくさんの餌が採れる環境が近くにあることと、人が近くに住んでいること。人家の周りに巣を作れば、カラスやヘビなどから雛を守られれることを知っているのでしょう。そして、人はツバメが軒先に巣を作ることは、お客が絶えない証と、商売繁盛の験を担いで大切にしてきました。このため、商店街が最も安心して子育てできるところになったと言われています。
世田谷で一番距離が長い祖師谷大蔵商店街。ここは道の拡張が進まず、一方通行の狭い道のため、人と自転車で溢れ、初めて訪れた人は、まるで中国みたい!という感想が聞かれます。そんな狭い商店街を、人通りの合間を縫うようにたくさんのツバメが飛行しています。それは周辺に緑地や川が流れていることと、古くから営む商店、人がたくさん往来することが要因と言われ、ツバメウォッチングの名所となっています。また、巣を作られたお店では、巣が落ちないよう(糞が落ちないよう)板などで細工しているお店も見られます。
しかしこのところ、ツバメの姿が少なくなってきました。原因をあれこれ考えると、チェーン店が増え、雇われ店長が糞による汚れやお客さんの服を汚すことを防ぐため、巣を壊してしまうのでは?なんて意見もありますが、一番の理由は、商店街の建て替えにあるようです。最近はやりの建物は、軒や庇がなく、すっきりとしていて、カラスに見つかりやすくなってしまいました。
世田谷トラストまちづくりでは、10年前に世田谷全区域のツバメが子育てをしている営巣調査を行いましたが、この度、それを基にして、同団体に所属する野鳥ボランティアたちにより、本当にツバメが少なくなったのかを検証するための調査が3年にわたり行われました。その結果、商店街での営巣は確かに少なくなり、商店街とははずれた周辺のタクシー会社の車庫や事業所の倉庫で巣を作っていたことが判明。ツバメの数自体は1000~1100羽と、前回調査とほぼ同じ数ということもわかりました。
はるばる渡ってきたものの、去年あった巣がなくなっていたり、カラスに見つかりやすくなった建物では巣作りができないと思ったのでしょう。安心して巣づくりできる好物件を探しているうち、夜中も人がいるタクシー会社の倉庫や、事業所の倉庫を見つけ、よし!!と思ったら、他のツバメたちも同じことを考えていたらしく、いつの間にか集中してしまい、コロニーを形成したようです。でも、嬉しいことは、たくさんの巣による糞害や、たくさんの雛の鳴き声の騒音があっても、優しい眼差しで巣立ちまで見守る人がいること。米の害虫を食べる益鳥として重宝がられて以来、日本人はツバメと長い付き合いを築いてきました。きっとそのことが日本人の心のどこかに備わっていて、ツバメを優しく見守るようになったのではないでしょうか。
ツバメが安心して巣づくりできる街は、自然に優しい、人情味にも溢れる人が多く暮らす街なんだろうなと思っています。